※この記事は2023年10月31日に更新された記事です。またこの記事は筆者による推測も含まれ、結果を約束するものではありません。
2022年12月、師走で世間が騒がしい中、突如として元日銀総裁の黒田氏による金利上昇容認とも取れる発言が飛び出しました。
これは固定金利の上昇に繋がる、YCC(詳細は後述)の拡大を示すもので、この時に0.25%→0.5%に引き上げられられました。
さらに4月に日銀総裁が植田氏に変わり、2023年7月に、0.5%→1.0%へさらに引き上げられました。
長らく日本では低金利であることが当たり前になっておりましたが、突如としてインフレが進み、先進国が利上げをする中で、日本も多少なりとも影響を受けています。
住宅ローンをこれから借りる方にとって、特にこれらの出来事は借入金利に直結しますので、非常に気になるところだと思います。
そこでこの記事では、日銀総裁の発言の意図や、金利が決まる仕組み、そして今後どのように金利が動いていくのか、を解説してきます。
宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー
ハウスクローバー株式会社の創業者兼CEO。また同時に、毎年全国から2〜300組ほどの住宅購入希望者の相談があり、実際の購入もサポートする現役の不動産エージェントでもある。業界歴は15年以上。多くの人から受ける相談内容と不動産業界の現状にギャップを感じ、住宅購入に必要なサービスと優良な不動産エージェントのネットワークを構築したプラットフォーム「HOUSECLOUVER」を企画運営している。自身が情報を発信しているYoutubeやブログは多くの住宅購入者にとって欠かせないバイブルとなっている。
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日銀総裁の発言にあったYCCって何!?
これまでの日銀総裁の発言は簡単にまとめると、「長期金利の許容変動幅をこれまでの0%プラスマイナス0.25%から0.5%に拡大する、さらに0.5%から1.0%へ拡大する」というものです。
詳しくは後述しますが、この長期金利は本来、市場の原理によって決まるものです。
しかし、現在は日銀が長期金利の急激な上昇を防ぐために調整しているのです。
長期金利の推移を調整することを、「イールド・カーブ・コントロール(以下YCCと省略)」と呼びます。
そして、これまでの日銀総裁の発言は、このYCCについての発言となります。
この発言がどんなことを意味するのか、より分かりやすく深掘りしていきたいと思います。
長期金利とは何か?
まず長期金利とは何か?
長期金利は、10年国債の利回りが基準となっています。
そして長期金利は主に10年以上の固定金利に連動しています。
つまりこれまでの発言は、変動金利ではなく固定金利が影響を受ける発言と理解することができます。
次に長期金利がどのように決定されているのか、そのメカニズムを解説していきます。
長期金利と国債の関係
長期金利は10年国債の利回りであると先ほど説明しました。
それでは10年国債の利回りはどのように決まるのか。
まず国債を発行するのは財務省(国)です。
日銀や政府ではありません。
国債とはその名の通り「国に対する債権」です。
国はこの国債を発行し、機関投資家(銀行や保険会社など)や個人に買ってもらうことで、市場からお金を調達(借りる)しているのです。
債権は以下のような仕組みになっています。
※ここでは話をシンプルにするために10年ではなく1年の債権を仮定します。また利払いは償却時に一括と想定します。
※実際国債には様々な種類があり、発行条件なども細かくあるのですが、仕組みの大枠を知っていただくためにかなり大雑把な解説になりますことをご容赦ください。
【債権A】
額面金額 | 発行(購入)価格 | 利回り(利率) |
110円 | 100円 | 10% |
額面金額は1年後にこの価格で買い取る価格になります。
そして発行価格はそれを100円で最初に買ってもらうという価格です。
購入する立場からすると100円で買った債権を1年後に110円で買い戻してくれるという意味になります。
1年で10円儲かったことになるので、利回り(利率)は10%となります。
この利回りは市場の状況などに応じて決定されます。
ちなみに日本は非常に低金利(執筆時点で0.05%)ですが、信用度の低い諸外国や金利が高い国では利率が高くなる傾向があります。
一方で、以下のような条件の債権があったとします。
【債権B】
額面価格 | 発行(購入)価格 | 利回り(利率) |
120円 | 100円 | 20% |
100円で購入した債権が120円で戻ってくる債権です。
あなただったら、AとBのどちらの債権が欲しいですか?
もちろん後者の方ですよね。
次にポイントとなるのが、この新規発行された債権は、償却までに所有者が自由に債権市場で売買ができるようになります。
そうすると債権Aが売られて債権Bが買われます。
債権Aを持ち続けているよりも、債権Aを売って債権Bを買って持っていた方が、購入したお金に対して、もらえるお金が多いからです。
次に、債権が売られるということは人気が下がり、価値が下がるということなので、購入価格が下がることになります。
仮に債権Aが売られて価格が下がり購入価格が98円に下がったとします。
債権Aは持ち続けていると、最終的に110円で買い取ってもらうので利益は12円になります。
利回り(利率)を計算すると、
12 ÷ 98 ≒ 12.24%
となり、利回り(利率)が上昇します。
これが長期金利と国債の関係性です。
今は日本の金利が安く、欧米諸国の金利は高いため、日本の国債は市場で売られて、欧米諸国の国債が買われています。
この動きから、日本の国債が下がり、結果として長期金利が上昇しているのです。
しかし市場の原理に任せておくと、長期金利は非常に高くなってしまうので、日銀が国債を大量に買い取ることで債権価格が落ちすぎないようにし、金利をコントロールしている。
これがイールドカーブコントロール(YCC)です。
今まではこの10年国債の金利が0.25%、もしくは0.5%を超えないようにコントロールしてきたいのですが、この基準を1.0%に引き上げる。
これが冒頭の日銀総裁の発言です。
実際の長期金利のグラフを見ると、12月の発言までは0.25%くらいに落ち着いていた金利が突然0.5%くらいまで上昇し、7月の発言以降はさらに上昇し、直近では1%近い水準になっていることがわかると思います。
(楽天証券:日本国債10年のチャート)
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住宅ローンの固定金利は今後どうなる?
固定金利の値動きを見るためには、長期金利の値動きを予測していけばいいことがわかりました。
その上で、固定金利はこれからどうなるかを個人的な見解を持って予測していきたいと思います(あくまで個人的な予測になりますので、ご容赦ください)。
世界情勢と長期金利の関係
欧米諸国では、日本以上に長期金利が上昇しています。
日本はほとんど変わっていませんが、アメリカやドイツは2022年の一年で2%以上、上昇しています。
欧米諸国が金利を積極的に利上げしていった背景にインフレがあります。
ちなみに欧米諸国に比べれば日本のインフレ率はそこまで高いものではありませんでした。
欧米諸国はこぞって金利を上げて景気を後退させてインフレを抑える方針を採用しました。
そして景気の後退が本格化すれば、今度は金利を下げていく方針です。
しかし現在の状況を見ると、アメリカのインフレ率は2022年よりは落ち着きを見せてきているものの、まだ金利を下げられるような状況ではありません。
まだしばらく欧米諸国の金利政策は変わらないであろうと予測されます。
住宅ローンの固定金利は上昇していく
ここまでのことを総括して、住宅ローンの固定金利はどうなっていくのか。
私の見解は、緩やかではあるものの上昇していくと考えています。
まず欧米のインフレが治る気配がなく、当面は今のような動きが続くと思われます。
YCCもこれから上昇していくと考える方が自然ですし、日銀が従来の金融緩和政策から正常化に舵を切った場合、YCCそのものが撤廃される可能性があります。
YCCがもし撤廃された時は、今のような緩やかな上昇ではなく、急激な上昇になると思われます。
この日銀の金融緩和政策から正常化へと正常化へと舵を切るかどうかについて、詳細は後述します。
変動金利はどうやって決まっているか?
次に、固定金利の仕組みの解説と予測ができたところで、変動金利について解説していきます。
変動金利は短期金利と呼ばれる指標に連動していて、短期金利は日銀が決めています。
別名「政策金利」とも言われています。
欧米諸国が金利を上げているといのはこの政策金利のことです。
そして日本は現在、リーマンショック以降、この短期金利は変わっていません。
住宅ローンの変動金利は基準金利と優遇金利で決まる
住宅ローンの変動金利は、基準金利から銀行独自の優遇金利を引いた金利が貸出金利で決まります。
変動金利の基準金利は10年以上、2.475%で止まったままです。
しかし、住宅ローンの貸し出し競争の激化で優遇金利は年々大きくなってきており、実質的な貸し出し金利は下がっているのが現状です。
最近では0.3%を切るような住宅ローンも出ていきています。
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住宅ローンの変動金利は今後どうなる?
それでは住宅ローンの変動金利の今後はどうなるか?
私の個人的な予想では「しばらく変わらない」と考えています。
もちろん変動金利も日銀の政策次第です。
金融緩和を急に止めるようなハードランディングをすれば上がりますが、その可能性も低いのではないでしょうか。
その理由として、今の日本は短期金利を上げたくても上げられない理由があるからです。
その理由は以下の通り。
- 日本は借金大国で短期金利を上げることは自らの首を締めることにもなる
- 住宅ローンを変動金利で借りている人が多すぎる
- 実質賃金が上がっていない
1.日本は借金大国で短期金利を上げることは自らの首を締めることになる
これは財政上の理由ですが、今すでに発行している国債はともかく、いまだ長期金利でYCCを継続するなど、国債の購入は継続しています。
また赤字国債も毎年相応の額を発行しているため、短期金利が上がると、その借金の利率が上がることとなるので、日本の財政事情として短期金利を上げることはハードルが高いと考えられます。
2.住宅ローンを変動金利で借りている人が多すぎる
住宅ローンを変動金利で借りている人が多いのも懸念の一つです。
景気が良くなり、給与が上がってから金利が上がるのであればいいのですが、今の日本は景気が悪く給与も上がらないまま物価が上がってしまっているので、多くの人の可処分所得(自由に使えるお金)は減っています。
こんな中で住宅ローンの変動金利が上がってしまうと、破綻する人が続出し、様々な方面への影響が大きくなります。
3.実質賃金が上がっていない
日銀はそもそも物価上昇率の目標を2.0%としており、目標を達成したら短期金利を上げると公言していました。
しかし、意図しないインフレが発生してしまい、物価上昇率そのものは達成できたものの、日銀は安定的に達成する状況にはなっていないとしています。
安定的に達成する状況というのがポイントで、ただ単に物価が上昇しただけでなく、人々の給与が上昇したかというところを見ています。
今注目されているのは来年の春闘で、給与の値上がり率(ベア)がどれくらい上昇するかです。
ただし、実質的な賃金(名目給与額から物価上昇率を除いたもの)は、2023年7月時点で16ヶ月連続のマイナスとなっており、さらに下落幅も拡大しています。
これらの3つの要因から、すぐには変動金利は上げないだろうというのが、筆者の考えです。
また金融緩和をやめたときに、すぐに政策金利を上げるようなことは考えにくいので、実際に変動金利が上がり始めるのは2025年頃になるのではないかと予想しています。
それでも変動という名の通り安定はない
これだけ変動金利が上がりにくい要因があったとしても、今後上がる可能性はあります。
例えば、これまでも触れてきた大規模金融緩和の終了。
なぜ今銀行が住宅ローンの貸出競争に陥ってしまっているかというと、金融緩和の影響でお金が有り余っているからです。
銀行も預かっているお金を遊ばせておくわけにはいきません。何かしらの運用をしなければいけません。
とは言え、運用といっても預かっているお金なので安全性も求められます。そこでも最も最適な運用先となっているのが住宅ローンなのです。
金利は低いものの、企業向けのローンと比較して焦げ付きリスクが非常に低いと言われる住宅ローンは金融機関にとって非常に魅力的なのです。
しかし、日銀が大規模な金融緩和を止めると市場のお金は減りますので、変動金利は上昇します。そして住宅ローンの貸し出し競争も終了します。
金融緩和をやめないと日本は破綻する?
なかなか変動金利を上げにくい状況ではあるものの、日本はいつまでも金融緩和を続けるわけにはいきません。
落ち着きは見せつつあると言っても、まだまだインフレと円安で多くの家計は非常に苦しい状態です。
それに世界的に見ても日本の国としてのリスクが高まってきていますので、いずれ日本売りが世界で始まる可能性も否定できません。
なので徐々にではあるものの、痛みを伴いつつも金融緩和を終わらせていくストーリーも十分考えられますし、実際これが現実的なストーリーとなるのではないでしょうか。
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これからの住宅ローン金利選びは?
2021年くらいまでは、私はどちらかと言えば長期間固定金利をお勧めすることが多かったです。
コロナ禍で近い将来インフレが起こることは予測もできており、長期間固定金利が安いうちに借りておいたほうがいいという考え方からでした。
そもそも変動金利については、借入金額がそもそも低い、借入期間が短いなど、変動金利のリスクが低い方や、金利が上がっても支払っていける収入や資産背景がある方についてはリスクをとっても大丈夫と説明してました。
それ以外の方は、長期的な視点を持ったときにリスクを排除できるのと、返済額を固定できるのでお勧めしていることが多かったです。
実際これまで2021年まで長期間固定金利で借りてきた人たちは、今回のような騒動があっても気になりませんが、変動金利で借りている人たちにとってみては落ち着かない状況だと思います。
しかし、ここ最近の固定金利の上昇を考えると、変動金利との差が大きく開いてきているため、固定金利を選択することに二の足を踏む方が増えてきているのも事実です。
私が長期間固定金利を勧めていた2021年頃までは、変動金利で安いところで0.4%ちょっと。
長期間固定金利で安いところで1%ちょっとでした。
金利差で言うと0.6~0.7%くらいです。
しかし、この記事を執筆している現在は、変動金利が安いところで0.3%ちょっと。
長期間固定金利で1.5%(フラット35に至っては2%近く)ほどと、以前の倍以上に金利差が開いています。
ここまで来ると、変動金利がここまで上がるには、景気がよほど良くなっていないと考えにくく、最近は変動金利をお勧めしていることが多いです。
しかし、変動金利を借りるにしても次のポイントは絶対に外さないように案内をしています。
金利上昇による耐性をチェックしよう
私がどんな金利タイプを選ぶにしろ、必ず家を探す前に金利上昇による耐性をチェックすることをお勧めします。
耐性というのは家計がどれだけ金利上昇に耐えられるのかというものです。
なぜ家を探し出す前にするかというと、想定する金利によって予算が変わるからです。
耐性チェックのお勧めの方法は、ハウスクローバーの会員サイトにあるライフプランニングシミュレーションをすることです。
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金利選びは非常に悩ましい問題ですが、自分なりにしっかり考えて消化しておかないと後悔しかねません。
しかも影響を受けるのは家計ですから、楽観的に考えるよりも多少悲観的に考えておくくらいでちょうどいいと思っております。
この記事があなたの金利選びの参考になっていただければ幸いです。
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ハウスクローバー株式会社の創業者兼CEO。また同時に、毎年全国から2〜300組ほどの住宅購入希望者の相談があり、実際の購入もサポートする現役の不動産エージェントでもある。業界歴は15年以上。多くの人から受ける相談内容と不動産業界の現状にギャップを感じ、住宅購入に必要なサービスと優良な不動産エージェントのネットワークを構築したプラットフォーム「HOUSECLOUVER」を企画運営している。自身が情報を発信しているYoutubeやブログは多くの住宅購入者にとって欠かせないバイブルとなっている。
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