中古マンションを購入するときに、少しでも費用を抑えたいという考えから登記を自分で出来ないかと質問されることがあります。実際のところ、購入する中古マンションの登記を自分ですることはできるでしょうか。
中古マンションに関わる登記の種類には、所有権移転登記や抵当権設定登記などがあります。法律知識やノウハウに乏しい素人が独力でやることは難しそうにも見えます。今回は登記を自分でする際のやり方やリスクについて解説します。
宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー
ハウスクローバー株式会社の創業者兼CEO。また同時に、毎年全国から2〜300組ほどの住宅購入希望者の相談があり、実際の購入もサポートする現役の不動産エージェントでもある。業界歴は15年以上。多くの人から受ける相談内容と不動産業界の現状にギャップを感じ、住宅購入に必要なサービスと優良な不動産エージェントのネットワークを構築したプラットフォーム「HOUSECLOUVER」を企画運営している。自身が情報を発信しているYoutubeやブログは多くの住宅購入者にとって欠かせないバイブルとなっている。
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中古マンションの購入時に登記は自分でできるの?
登記は司法書士が行うもの。そんな固定観念があります。確かに登記は日頃は縁遠い世界です。手続きも面倒で作成する書面も難しそう。そうしたイメージがあるのも確かです。
一方で登記を自分で行なう人も増えています。手数料の節約のためやネットなどで申請方法がわかるようになったからです。日常はお目にかかることのない登記の世界をのぞいてみましょう。
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登記は自分でも可能
結論としては、登記は自分で行なうことが可能です。自分で登記を行うことを本人申請といいます。法律の建前からいくと自分で行なうことのほうが原則です。司法書士はあくまで代理で提出する立場です。
ただ、世間を見渡してみると自分で登記をすることはごく少数派です。筆者自身も、お客様ご自身で登記をしたといった経験はありません。それくらい司法書士が登記を行うことについて一般的なのですが、手続き自体は見ていてそこまで難しいものではありません。
必要書類は自分でも揃えることができる
司法書士が作成する書類は以下のとおりです。
- 登記原因証明情報
- 委任状
買主が用意すべき書類は次のものがあります。
- 住所を証する書面(住民票、印鑑証明等)
売主が用意するのは以下の書類です。
- 権利証(登記済証、登記識別情報)
- 印鑑証明書
- 登記事項証明書
これらの書類のうち売主や買主が用意すべき書類は登記する人が誰であっても必要な書類です。登記を自分でする場合は登記原因証明情報と委任状を自分で作成することになります。これらの書類のひな型はネットで手に入れることが可能です。このように必要書類は自分でも揃えることができます。
やり方はネットで調べられるものばかり
具体的な登記の方法はどうすればよいでしょうか。これについても書籍やネットで調べることができます。基本的には書類を揃えて法務局の窓口に提出するだけです。手続きをすれば、ネットを介してオンライン申請することも可能です。登記申請自体はそれほど難易度の高いものではありません。
法務局の相談コーナーでOBが教えてくれる
もし申請の仕方がわからなくても不安になることはありません。大きな法務局には登記申請に関する相談コーナーが設けられています。ここには登記官のOBや委託を受けた司法書士が相談員として常駐しているのです。わからない点は彼らに聞いてみましょう。快く教えてくれるはずです。実はこの相談員も近年は増加傾向にあります。これは本人申請が増えている証拠の一つです。
住宅ローンが絡むと金融機関が難色を示す
その気になれば中古マンションを購入する際に自分で登記をすることはできそうです。ですが、実際には登記を自分でする人はほとんどいません。時間がない、手続きが面倒という理由もあります。しかし、一番の理由は金融機関の存在です。
住宅ローンを組んで中古マンションを購入する場合には、金融機関が関わってきます。どのような場面で金融機関が関わり、なぜ金融機関が本人申請を敬遠するのか見ていきましょう。
住宅ローンには抵当権が必須
住宅ローンを利用する際には抵当権を設定することが一般的です。抵当権とは、万一ローンの返済が滞ったときに今回購入した中古マンションを競売にかけ、その売買代金からローンの残債を返済させるための権利になります。
抵当権がないと金融機関はもしもの時の資金回収手段がなくなってしまうのです。このような状態では金融機関はその住宅ローンの実行のゴーサインを出しません。住宅ローンには抵当権がどうしても必要なのです。
金融機関はリスクを嫌う
登記を自分で行なう場合、抵当権の設定も自分で行なうことになります。抵当権設定には金融機関も様々な書類が必要になります。プロである司法書士ならば金融機関も信頼して書類を預けたり、手続きを依頼したりできますが、登記に関して詳しくない人に登記を任せるのは不安に思うことでしょう。
また、中古マンションを購入した買主が自分で登記を行う場合、買主と金融機関は利害が対立する立場になります。つまり買主からすると抵当権を付けないほうが自分にとっては有利になるのです。こうなると金融機関はいくらローンを借りてくれるお客さんの頼みであっても抵当権の設定登記まではやらせてくれません。金融機関はリスクを嫌うものなのです。
他にも移転登記を申請するためには、売主に住宅ローンが残っていた場合、抵当権抹消の手続きも必要になります。一つ一つの手続きとしてみたときは簡単に見えるかもしれませんが、大金が動く取引である以上、失敗は許されません。
次からは自分で登記を行おうとするときに考えられるリスクについて説明していきます。
登記が上手くいかなかったときのリスク
購入した中古マンションを自分で登記するとコストがカットできることがわかりました。また、ローンを組む際には金融機関が難色を示すことも理解できます。では登記が上手くいかなかったときのリスクはどんなものがあるでしょうか。調べてみると大きな落とし穴がいくつもありました。
所有権を主張することができない
そもそも不動産登記は、誰がその不動産を持っているかを公示する手段です。民法では登記がなければ第三者に対して不動産の所有権を主張することができません。少し複雑ですが、取引自体は有効なので売買代金は払わなくてはいけません。お金は払ったけれど、自分のものだと主張できない、そんな最悪の事態に陥ってしまいます。
売主とのトラブルの元
登記が上手くできないと売主にも迷惑をかけてしまいます。売主の中には書類の貰い直しや押印のし直しを嫌う人もいるものです。会社であれば手続き上簡単に書類の再発行ができない場合もあります。何より売主との信頼関係が崩れてしまいます。
決済までには多額の金銭が動き、契約引き渡しまでに時間と手間をかけているもの。できればトラブルなく登記までたどり着きたいものです。
二重売買のおそれ
登記が上手くできないと登記上の名義は売主のままになってしまいます。最悪のケースではそのことを悪用されて二重売買をされてしまう可能性もあるのです。判例上も二重売買では先に登記をしたほうが所有権を取得します。
最後の登記でつまずいたばかりに欲しかった中古マンションを手に入れられないのはとても残念なことです。自分で登記することにこだわり、時間をかけていると悪意のある売主が二重売買をしてしまうかもしれません。
まとめ:登記費用の損得よりも、確実に履行する方が重要
自分で登記をすると司法書士の手数料分節約できますが、司法書士が介在しない分、専門家のサポートを受けることができません。実は司法書士は登記申請の書類を作成するだけが仕事ではないのです。ここでは司法書士の隠れた仕事と登記は確実性が必要であることを解説します。
司法書士はいろいろなことをしてくれる
司法書士は登記申請の書類を作成してそれを法務局へ持っていくだけが仕事ではありません。まずは所有権の確認をします。決済当日にネットで登記情報を見て、本当に売主がその中古マンションを持っているかを確認するのです。
そして決済の場では、本人確認も行います。本当にその場にいる人が売主や買主本人なのかを確認します。これは免許証などの身分証明書で行なうものです。さらには実印の確認もします。印鑑証明書の印影と押印された印鑑が同一のものなのかも確認するのです。こうした確認を通じて司法書士は取引の安全を確保しています。
登記費用のうち司法書士手数料の割合は少ない。
司法書士はこうした多くの確認作業や書類の作成を行なって取引が円滑に進むようサポートしてくれます。一方で登記費用の大半は登録免許税と呼ばれる税金です。司法書士の報酬をを安いとみるか高いとみるかは人それぞれになりますが、費用がかかってもスムーズに取引したいとすれば安く感じます。
登記は確実に履行する方が重要
司法書士に依頼するにしろ、自分で登記申請を行うにしろ、登記手続きは確実に行うことが必要です。万一登記が上手くできない場合、取引自体が消滅してしまう可能性だってあります。
住宅ローンの利用がなく、売主も自分で登記することに同意してくれるなら自分で登記することも可能です。金融機関の介在もなく、売主や買主が共有名義でなくて少人数であればリスクも少ないからです。住宅ローンを利用する場合や売主や買主が共有名義の場合には司法書士の知識に頼ることをおすすめします。
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