中古マンションを買うとき、物件選び以上に分かりにくいのが「契約」と「お金」の話です。買付証明書は撤回できるのか、手付金はいくら必要なのか、キャンセルしたら戻ってくるのか。専門用語も多く、なんとなくのまま進めてしまう方も少なくありません。
ただ、この契約とお金の部分は、実はトラブルになりやすい領域です。知らないまま進めると、手付金を失ったり、余計な費用がかかったりすることもあります。
この記事では、業界17年の私が、契約とお金に関してよくいただく7つの疑問に即答していきます。これから購入を検討される方は、ぜひ事前に押さえておいてください。
この記事で分かること
- 買付証明書(購入申込書)は撤回できるのか、その重みとは
- 手付金の目安は物件価格の何%か、そして手付金の本当の意味
- 契約後にキャンセルしたとき、手付金が戻る場合と戻らない場合
- 「白紙撤回」と「契約解除」の決定的な違い(仲介手数料の扱い)
- 物件価格以外にかかる諸費用の目安
- 住民票を移すタイミングという、業界のグレーな問題
- 引き渡し当日にやること、そして引き渡し直後に必ず確認すべきこと
疑問1:買付証明書を出したらキャンセルできないのか
結論から言うと、買付証明書(購入申込書)に法的な拘束力はないため、原則としてキャンセルは可能です。ペナルティが発生することもありません。
ただし、これは仲介業者にもよりますが、きちんとした業者ほど、この申込書を出すことには重い意味があると考えています。
買付証明書とは、「買います」という意思表示と「どういう条件なら買うか」を示す書面です。これを出して初めて商談、つまり交渉が始まります。商談がまとまらなければ決裂で仕方ありませんが、まとまったらそのまま契約に進んでくださいね、という前提で受け取っている担当者が多いのです。
業者の中には「とりあえず出しましょう」と軽く勧めてくるところもあります。書類を出させればお客様の意識を購入に向けられる、契約まで持っていければこちらの勝ち、という営業スタイルの人たちです。しかし本来、そんな雰囲気で出す書類ではありません。
良い物件があれば早めに動いた方がいいのは事実ですが、商談がまとまった後のキャンセルは、担当者との信頼関係にも影響します。ご自身の中でしっかり考え、「この条件なら買いたい」という気持ちになってから出すべき書類です。
疑問2:手付金はいくら必要か
手付金に厳密な金額ルールはありませんが、一般的な目安は物件価格の5%程度です。
唯一明確なルールとして、売主が不動産会社の場合、物件価格の1割または1,000万円を超える手付金を預かるときは「保全措置」が必要とされています。これはリーマンショックの際、資金繰りに困った不動産業者や建築業者が手付金を受け取ったまま倒産し、支払った買主が大きな損害を被ったことを受けてできた制度です。一定額以上の手付金は保険会社に預け入れる形で保全する仕組みになっています。
それ以外に金額のルールはありませんが、一定の金額が必要とされる理由があります。手付金には「解約手付」という意味合いがあるからです。
- 買主が契約をやめる場合:支払った手付金を放棄して解除できる
- 売主がやめる場合:手付金をそのまま返還し、さらに同額を支払って解除できる(いわゆる倍返し)
つまり手付金は、解約する際のペナルティとして機能します。5,000万円の物件に対して手付金が10万円では、あまりに簡単に解約できてしまい意味がありません。そのため目安として5%程度とされることが多く、私もお客様には5%程度をお願いしています。売主側が大手の不動産会社の場合、5%以上を求められるケースも増えています。
なお、よくある誤解ですが、手付金は物件価格とは別にかかる費用ではありません。5,000万円の物件で手付金250万円を支払った場合、残代金は4,750万円になります。あくまで代金の一部を先に支払っているだけなので、損をするわけではありません。
疑問3:契約後にキャンセルしたら手付金は戻るのか
キャンセルの種類によります。自ら都合でやめる場合は戻りませんが、「白紙撤回」に該当する場合は戻ってきます。
代表的なのが住宅ローン特約です。住宅ローンを利用して購入する方には基本的に付いてくる特約で、契約前に事前審査(仮審査)を通し、契約後に本審査を行います。この本審査が本人の責任ではない理由で通らなかった場合、白紙撤回となり、契約そのものがなかったことになるため手付金は全額戻ります。
ほかにも、契約から引き渡しまでの間に地震などの天災で建物が倒壊し、引き渡しができなくなった場合(引渡し前の滅失)も、誰の責任でもないため白紙撤回の扱いになります。
ただし、ローン特約はあくまで本人に責任がない場合に限られます。次のようなケースでは適用されません。
- やめたいがために、あえて銀行の審査を出さない
- 虚偽の申告をしていた
- 契約後・本審査前に新たな借入をした
- 契約後・本審査前に転職した(返済能力の評価が変わるため)
これらは買主側に責任があるため、白紙撤回は使えません。
疑問4:「白紙撤回」と「契約解除」は何が違うのか
言葉は似ていますが、この2つはまったく違います。
白紙撤回は、契約がなかったことになります。したがって手付金は戻り、仲介手数料もかかりません。
契約解除は、成立していた契約を途中で打ち切る形です。手付金は没収となり、さらにもう一つ、多くの方が見落としている費用が発生します。仲介手数料です。
仲介手数料はそもそも「契約が成立したこと」に対する報酬なので、契約が成立した時点で支払い義務が確定します。途中で解除しても、契約自体は成立していたため、仲介手数料は支払わなければなりません。
つまり契約解除は、手付金を失ったうえに仲介手数料もかかる、非常に重い決断になります。ノリで契約してしまうと、解除するにも負担が大きく、結局そのまま引き渡しまで進んでしまう方が多いのは、こうした背景があるからです。安くない買い物ですから、契約前の吟味が何より大切です。
疑問5:物件価格以外の諸費用はどれくらいかかるか
物件によって異なりますが、目安は次の通りです。
- 中古マンション:物件価格の8〜10%程度
- 中古戸建て:8〜12、13%程度(火災保険を一括で支払うと高くなるため)
- 新築(売主が不動産会社・建築業者から直接購入):5%程度
- 住宅ローンを使わない現金購入:3〜5%程度
住宅ローンを利用する一般的なケースなら、8〜10%を見ておけば大きく外れません。5,000万円の物件なら400万〜500万円程度です。なお旧耐震のマンションなどは減税制度が使えず、10%程度まで上がることもあります。仮に試算が8%でも、10%は見ておいた方が安心です。
諸費用の中身は、登記費用、住宅ローンの諸費用、仲介手数料、火災保険などです。加えて忘れがちなのが、引っ越し費用や家具の買い替え費用です。生活をスタートさせるところまで含めると、人によってはさらに100万〜200万円かかることもあります。物件価格だけを見ていると後から次々と上乗せされるので、最初から多めに見積もっておきましょう。
疑問6:住民票はいつ移すのが正解か
正直にお伝えすると、ここは業界でも長年グレーなままになっている、非常に説明しづらい部分です。
賃貸なら引っ越した後に移すのが普通ですが、売買の場合は「引き渡し前に移してください」と言われることが多くありました。最近はどちらでもよいとされるケースも増えていますが、役所・銀行・国で言っていることが違うのが実情です。
- 役所:引っ越してから来てください、が基本スタンス。引っ越す前だと受け付けてもらえないことが多い。
- 銀行:住宅ローンは居住目的の特別に金利の低いローンなので、その目的で使うことを確認するため、新住所の住民票や印鑑証明書を求めることがある。
- 国:居住用の住宅購入には登録免許税の減税があり、物件によっては数十万円変わる。以前は新住所の住民票が必要だった。
現在は、司法書士が申請書や上申書を出すことで後から対応できるなど、運用は柔軟になってきました。ただし旧住所のまま購入すると、登記簿に古い住所が記載され、後で変更の手間が生じます。登記のルール変更により罰則が設けられた部分もあるため、手間を考えれば引き渡し前に移す方がスムーズです。
問題は、実際には引っ越していないのに「引っ越した」と役所に伝えなければならない点です。これは住民基本台帳法上、本来は認められない行為です。役所の職員も実情は分かっていますが、正直に申告されればマニュアル通りに対応するしかありません。
私自身、正直を信条にしているので、この説明が一番困るところです。そのため説明用の動画やブログ記事を用意し、お客様に見ていただいたうえで、どちらにするかはご本人に判断していただくようにしています。ルールが統一されることを願うばかりですが、現状はこうしたグレーな状態が続いています。
疑問7:引き渡し当日は何をするのか、注意点は
まず、引き渡し(決済)当日に何をするのかを整理します。この日は「所有権を新しい所有者に移すこと」と「残代金の支払い」を同時に行う日です。住宅ローンが実行されるのもこの日になります。
支払いは振込になるため、銀行の窓口が開いている午前中に行われることが多く、売主・買主・仲介業者・司法書士が集まります。司法書士が本人確認と権利証などの書類を確認し、所有権移転ができる状態であることを銀行に伝え、住宅ローンが実行されて売主に振り込まれる、という流れです。
当日は仲介業者を中心に周囲が段取りを整えてくれるので、極端に言えばぼんやりしていても終わります。むしろ、この時点でやり残していることがあったら、その方が問題です。
引き渡し後すぐに確認すべきこと
重要なのは、引き渡しが終わった直後の確認です。契約書には「契約不適合責任」が定められており、売主が気づいていなかった欠陥をどこまで補償するかが決まっています。
期間の目安は次の通りです。
- 雨漏り・シロアリ・給排水管など主要構造部分:売主が個人なら3ヶ月程度が一般的。売主が不動産会社で買主が一般消費者の場合は最低2年。
- 付帯設備(給湯器、水回りなど):引き渡しから7日間など、初期不良のみ対応という契約書も多い。
つまり付帯設備については、引き渡し後7日間ですべてチェックしないと補償されないケースがあるということです。すぐに電気・水道・ガスの名義変更や開栓手続きを済ませ、設備を実際に動かして確認してください。
なお、エアコンは扱いが分かれます。原則として売主は設備を撤去して引き渡しますが、実際の取引では「まだ使えるので置いていってもらえますか」という話し合いになることも多く、その場合は対象に含めるかどうかを協議で決めます。一方、給湯器や床暖房のように外して引き渡すことがない設備は、当然に対象となります。
不具合を見つけたときの注意点
ここにも落とし穴があります。「不具合があったので自分で直した、費用を払ってほしい」というやり方はNGです。これを認めるとキリがなくなるためです。
契約書上のルールでは、下の階に水が流れるような緊急時を除き、まず売主に立ち会ってもらい、不具合であることを確認したうえで修理に入る必要があります。この手順を踏まないと費用は支払われません。違和感を覚えたら、勝手に対処せず、まず担当者に連絡してください。
契約とお金のチェックリスト
- 買付証明書は「この条件なら買う」と納得してから提出したか
- 手付金は物件価格の5%程度を用意できているか
- 手付金が代金の一部であることを理解しているか
- 住宅ローン特約の適用条件(契約後の借入・転職はNG)を理解しているか
- 契約解除には手付金没収に加えて仲介手数料もかかることを把握したか
- 諸費用として物件価格の8〜10%、加えて引っ越し・家具代を見込んだか
- 住民票を移すタイミングについて、担当者から説明を受けたか
- 契約書の契約不適合責任の期間(特に付帯設備)を確認したか
- 引き渡し後すぐに設備を動かして確認できる準備をしたか
まとめ
契約とお金の部分は、専門用語が多く分かりにくい反面、知らないまま進めると損をしやすい領域です。
買付証明書は法的拘束力こそないものの、商談を始める重い意思表示です。手付金は物件価格の5%程度が目安で、代金の一部でありながら解約時のペナルティという性格も持ちます。そして白紙撤回と契約解除では、手付金の扱いも仲介手数料の有無もまったく違います。
諸費用は中古マンションで8〜10%が目安ですが、引っ越しや家具の費用まで含めて考えることが大切です。住民票のタイミングは業界のグレーゾーンで、最終的にはご自身の判断になります。引き渡し当日よりも、その直後の設備確認の方が重要である点も押さえておいてください。
お金と契約はトラブルになりやすい場所です。だからこそ、こうした点をきちんと説明し、ご自身の立場で判断を助けてくれる担当者を選ぶことが、ストレスの少ない取引につながります。
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今回お話しした契約やお金の部分は、担当者の質によって取引のストレスが大きく変わるところです。「契約の説明をきちんとしてくれる担当者に出会いたい」という方は、ぜひご活用ください。動画解説をご希望の方は、YouTubeチャンネル「HOUSECLOUVER(ハウスクローバー)」もあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 買付証明書を出した後にキャンセルできますか?
A. 法的拘束力はないため原則キャンセルは可能で、ペナルティもありません。ただし買付証明書は「この条件で買います」という意思表示であり、商談がまとまれば契約に進む前提で受け取られます。担当者との信頼関係にも関わるため、納得したうえで提出してください。
Q. 手付金の相場はいくらですか?
A. 明確なルールはありませんが、物件価格の5%程度が一般的な目安です。手付金は解約時のペナルティという性格を持つため、少なすぎると契約の意味が薄れてしまいます。なお手付金は代金の一部なので、別途かかる費用ではありません。
Q. 住宅ローンの審査に落ちたら手付金は戻りますか?
A. 本人に責任がない理由で本審査が通らなかった場合は、住宅ローン特約により白紙撤回となり、手付金は全額戻ります。ただし、あえて審査を出さない、虚偽申告、契約後の新規借入や転職など、買主側に責任がある場合は適用されません。
Q. 契約解除すると手付金以外にも費用がかかりますか?
A. かかります。仲介手数料は契約が成立した時点で支払い義務が確定するため、途中で解除しても支払う必要があります。手付金の没収と合わせて負担が大きくなるため、契約は慎重に判断してください。白紙撤回の場合は契約自体がなかったことになるので、仲介手数料もかかりません。
Q. 中古マンションの諸費用はどれくらい見ておけばいいですか?
A. 物件価格の8〜10%が目安です。旧耐震などで減税が使えない場合は10%程度になることもあります。5,000万円の物件なら400万〜500万円程度です。加えて引っ越し費用や家具の買い替えで100万〜200万円かかることもあるため、余裕をもった資金計画をおすすめします。
Q. 引き渡し後、いつまでに不具合をチェックすべきですか?
A. 契約書によりますが、付帯設備は引き渡しから7日間のみ補償という契約も多いため、すぐに確認してください。雨漏りやシロアリ、給排水管など主要構造部分は、売主が個人なら3ヶ月程度、売主が不動産会社なら最低2年が一般的です。不具合を見つけても自分で修理せず、まず担当者に連絡しましょう。
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