ハウスクローバーの宮田です。
この記事は、私が15年以上、不動産業界で営業をしてきた中で、特に印象に残ったお客様のストーリーをご紹介する「CLOVER STORY(クローバー ストーリー)」の連載記事です(お客様の許諾済みです)。
不定期配信になりますが、ぜひ読み物として楽しんでいただければと思います。ストーリーの中にも、住宅売買の参考になるようなエッセンスを散りばめていきます。
前回のストーリーも、ぜひ合わせてご覧ください。
登場人物
M様:千葉県の自宅の所有者(現在ICUに入っている)。私に問い合わせをしてくれた方。
M様の奥様
K様:M様の長兄
T様:M様の長女
S様:T様のご主人
長女T様の住み替え
M様のご自宅の売却が進んでいく中で、ある日届いた、M様の長男K様からの1通のライン。
その内容は、「実家の査定書と売買契約書を住替えの物件について進める上で必要なため、LINEでお送りいただくことは可能でしょうか?」というもの。
“売買契約ができないので、成年後見人制度を勧めているんだけどな”とは思いつつ、売買契約書はないので、それに変わる買主様から取得した買付証明書や、相続に関わる遺産分割協議書など、代わりになりそうなものを送りました。
また、単純に何に使うのか気になったので、聞いてみたところ、妹(長女T様)の住み替えで使うとのこと。
それを聞いて、確か親族が一堂に介したときに、長女のT様が「お母さん(M様の奥様)は、体も丈夫ではないので、私のところに来てもらおうと思っています。ただ、今のマンションでは狭いので、今回の売却資金を元手に、戸建てか何かに住み替えようと思っています」と言っていたのを思い出しました。
私も「手伝いますよ」とは、言ったものの、まだ元手となる売却資金がいつになるか、そもそもまだ売買契約すら締結していないのに、大丈夫かな?とは思いつつ、あまり突っ込んで色々聞くのも失礼かと思い、特にそのままにしていました。
そしたら翌日に、長男のK様からまたLINEが入り、「妹夫婦が住んでいるマンションの査定をしていただくことはできますか?」とのことでしたので、もちろん大丈夫ですと、週末にお伺いすることになりました。
M様の長女T様の自宅査定に
3月最初の週末、妹夫婦(長女T様)がお住まいのマンションに訪問をしました。マンションは比較的築年数も浅く、綺麗なマンションです。
事前に部屋の情報は聞いていたので、室内の状態にはよるものの、ある程度の査定額を持って行きましたが、室内もリフォームの必要がないくらいの綺麗な状態です。
室内をざっと見つつ、妹夫婦に現在の状況などについてお伺いしました。
私の理解では、住み替え先が見つかったので、自宅マンションを売却をするのだろうなというくらいのものでした。
しかし、話を聞いていると、現在、新築戸建てを内覧させてもらった不動産業者(以下、不動産業者A)からの営業が、かなり強引で、T様ご夫婦にとってはリスクの高い提案でした。
不動産業界でありがちな、強引なやり方
T様は、不動産業者Aにどんな営業をされていたのでしょうか。
その前に前提知識として、住み替えの時の知識について簡単に解説しておきます。住み替えの時には、以下の2つの方法があります。
- 買い先行
- 売り先行
買い先行は、先に住み替え先を購入して、引っ越してから、現在の住まいを空き家にして売却する方法です。住み替え先を、先に購入するので「買い先行」と呼ばれています。
メリットは、じっくり住み替え先を探すことができることですが、デメリットは住宅ローンが残っていると、自宅が売却できるまでは二重払いになるので、資金繰りがかなり厳しくなります。
どちらかというと、買い先行は、すでに住宅ローンを完済している人向けです。
一方で、売り先行は、自宅を売却しつつ、売却契約ができたら、住み替え先の物件を購入し、同時に売却と決済を行うことです。
(売却してから、賃貸に引っ越して購入物件を探すこともありますが、引越しの回数が増えることや、その分の諸経費もかかるので、売り買い同時に行うことが多いです)
住み替え先を限られた時間の中で探さなくてはいけなくなるデメリットはあるものの、住宅ローンの二重払いを回避できるので、資金的なメリットが大きく、住宅ローンが残っている人は、基本売り先行が向いています。
ちなみに、売り先行の住み替えは、タイミングや段取りなど、非常に気をつけるべきポイントが多く、不動産営業業務の中でも上級者向けです
今回のT様ご夫婦においては、住宅ローンもまだ残っていて、そんなに資金繰りに余裕があるご家庭でもないので、売り先行で行くべき内容でした。
にも関わらず、不動産業者Aから営業されていたのは、「買い先行」だったのです。
不動産業者に言われるがまま進めていたらと思うと、、、
T様ご夫婦が気に入った購入を検討していた物件は、自宅のマンションから程近い「新築戸建て」です。
その際に内覧をしてもらった不動産業者Aからは、先にこの新築戸建てを買って、それからゆっくり今のご自宅のマンションを売りましょうと言われていて、査定もしてもらっていたようです。
しかしこの時点で、まだ3月に入ったばかり。M様の自宅売却の目処もまだしっかり決まっておらず、契約すらもできていない段階。
引き渡しが無事にできたとしても、早くて8月で、売却したお金が入ってくるのもその時です。
そんな状況にも関わらず、不動産業者Aは、先に戸建てを買っておいて、マンションを売却しましょうという提案をしてきたのです。
もし今回の買い先行の提案で話を進めた場合、T様ご夫妻にはどんな不利益があるでしょうか。
まず、先に新築戸建てを購入すると、今の自宅のマンションと、二重の住宅ローンの支払いが発生します。
まだ売却金額も入ってきていないので、ローンも目一杯組んでいて、生活はかなり苦しくなると容易に想像できます。
そんな中、本来はもっと高く売れるはずであっても、生活が苦しかったら、安くても買ってくれる人が現れたら、その人で決めてしまうと思いませんか?
不動産業者Aは、自宅マンションの査定書も、相場並みのものを出してきていましたが、生活が苦しくなれば、査定書よりも安くても売っちゃうだろうなと思います。
不動産業界は、基本「グレー」な業界
ちなみに不動産業者Aのメリットを考えてみましょう。
不動産業者Aとしては、まずその新築戸建てを売ることで、T様ご夫婦と、売主である不動産会社からの、双方から仲介手数料がもらえる両手取引が成立します。つまり一度の取引で、売上は2倍になる、不動産業者としては、非常に「おいしい」取引になります。
(ここからは想像ですが)さらに自宅マンションがなかなか売れないようにして、T様ご夫妻を弱気にさせます。そして弱気になったところで、買取業者Bを連れてきます。
買取価格は、再販をする前提なので、市場価格よりも安くなりますが、一般の消費者よりも早く売り渡すことができます。弱気になっていたT様ご夫婦は、喜んで売るかもしれません。それも、市場価格よりも1〜2割くらい安い価格で。
「自宅マンションがなかなか売れないようにする」と聞いて、そんなことできるの?と感じた方もいらっしゃったかと思いますが、結論から言えば、できます。俗に言う「囲い込み」と「値こなし」と言われる手法の合わせ技です。
「いやいや、このタイミングで僕にも声かけてくれて良かったですね〜。結構危なかったですよ」と言いながら、これまで書いたことを丁寧に説明し、その結果、T様ご夫婦は思いとどまることができました。
調べ物が得意だったり、リテラシーが高い人からしてみると、「こんなのよく考えたら分かるでしょ。」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、このような人って実は結構いて、よほど良い担当者がつかないと、不動産業界のカモにされがちなのです。
住み替えや、囲い込みなどの、業界の闇については、こちらの記事で詳しく解説していますので、気になる方はご覧になってください。
⇨ 「【不動産売却】悪徳不動産屋が使う手口を業界歴15年の現役のプロが暴露」
⇨「住み替えの買い先行と売り先行 タイミングとそれぞれのローン対策」
さて、次回はT様ご夫婦の売却活動と、住み替え先探しで「また?」勃発した事件についても、書いていきたいと思います。
〜続く〜
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